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■貯蓄って何?
所得のうち消費に支出されなかった残余の部分をいう。社会の全生産物のうち資本蓄積にあてることのできる生産物は、人々が消費しないで貯蓄した部分にあたる。貯蓄は個人貯蓄、法人貯蓄、政府貯蓄に分類される。個人貯蓄は、銀行預金、生命保険、有価証券、社内預金などによって構成されている。このように個人貯蓄は、換金の難易性を表す流動性、利子や配当の高さによって表される収益性、安全性などが配慮されることによりさまざまな保有形態をとる。法人貯蓄は積立金や準備金などの社内留保であり、自己資本を準備するために行う貯蓄である。現在の社会においては法人貯蓄は大きな比重を占め、資産運用の面からも重要性を増してきている。間接金融から直接金融へのシフトという最近の動きも、この傾向を助長している。政府貯蓄は政府経常余剰のことである。個人貯蓄、法人貯蓄、政府貯蓄を集計すると国内総貯蓄となる。 貯蓄が決定される過程には、二つの決定が含まれている。第一の決定は、FXが所得のうちどれだけを消費に支出し、どれだけを消費せずに貯蓄するかという決定である。第二の決定は、貯蓄形態についてであり、貯蓄を具体的にどのような形態で保有するかという決定である。 第一の決定については、人々が現在の消費による欲望充足と将来の消費による欲望充足をいかに評価するかが問題となる。将来の消費は現在の消費より低く評価されるのが一般的であるが、古典派経済学においては、この評価の相違を補うものが利子と考えられていた。換言すれば、現在の欲望充足を抑えて、消費を行わずに貯蓄することに対する報酬が利子であると考えられていた。したがって古典派経済学においては、貯蓄の大きさの決定にあたって利子率が重要視されていた。貯蓄は利子率を仲介として投資と結び付いていると考えられていた。 第二の決定については、J・M・ケインズによって強調され、流動性選好説に基づいて説明されている。流動性とは換金の難易性であるから、貨幣は完全な流動性をもつといえる。人々が貨幣を保有する動機には、取引動機、予備的動機、投機的動機がある。ケインズ経済学では、利子率は、この貨幣を保有する動機(とくに投機的動機)に関して把握される。前述したように、人々は貯蓄を銀行預金や有価証券などのさまざまな形態で保有しているが、貨幣を手放して流動性の低い保有形態をとることに対する報酬が利子であると考えられている。このため流動性が低い保有形態ほど高い利子が支払われることになる。したがってケインズ経済学では、貯蓄の大きさの決定では古典派経済学と異なり利子率は重要視されない。貯蓄は所得のうち消費に支出されなかった残余として定義されることから、ケインズ経済学では、貯蓄の大きさの決定にあたっては所得水準が重要視されている。 所得に対する貯蓄の割合を貯蓄性向という。所得の増加分に対する貯蓄の増加分の割合については限界貯蓄性向が定義される。ある期間の期首において人々が外為し計画する貯蓄を事前的貯蓄とよび、期末において実現された貯蓄を事後的貯蓄とよぶ。流動性選好説で強調された利子率の貯蓄の保有形態に与える影響は、トービンJames Tobin(1918―2002)により精緻(せいち)化されポートフォリオ理論(資産選択の理論)への発展となっている。 R・F・ハロッドは、貯蓄を動機別に不動産して、個人貯蓄を人々が老後に備える貯蓄と子孫に遺贈するための貯蓄とし、また法人貯蓄については事業拡張を図る自己資本を高める貯蓄としている。人々が老後に備える貯蓄を、その形状からハロッドはこぶ型貯蓄とよんだが、現在では貯蓄のライフ・サイクル仮説として分析されている。この動機によってなされる貯蓄は、最近の年金制度の発達の影響を受けている。社会保障制度の発達は、貯蓄の保有形態にも変化を与えている。法人貯蓄の決定には税制などの制度的要因が大きく影響している。 2. 貯蓄と資本蓄積 古典派経済学では、貯蓄は節約や制欲などを意味し経済的美徳と考えられていた。これは、貯蓄がすぐに投資となって資本蓄積に結び付けて考えられていたからである。将来に備え現在の消費を犠牲にする人々の行為は、社会の生産力増加をもたらすものとされていた。これに対して、ケインズ経済学では、貯蓄と投資の直接的な結び付きは考えられていない。生産力が過剰になっている不況時には、貯蓄に見合うだけの投資機会がなく、貯蓄は保蔵されているにすぎず生産力増加をもたらさない。これを不妊貯蓄とよぶ。反対に生産力に余裕がない場合に投資需要が増加すれば、物価水準が上昇し、人々の実質消費を減少させ、社会全体としてみると貯蓄が発生する。これは強制貯蓄とよばれる。 3. 日本における貯蓄 わが国の貯蓄を「国民所得統計」(内閣府)および「資金循環勘定」(日本銀行)から明らかにしてみよう。1999年度(平成11)における賃貸421兆3810億円のうち、貯蓄は48兆7947億円となっており、貯蓄率は11.6%となっている。一方、1991年度までは50%を超えていた貯蓄の総資本調達(総蓄積)に占める割合は、1999年度の総資本調達が114兆9418億円であることから、現状33.7%となっている。この急速な低下は、バブル経済崩壊および不況の長期化により、過去に形成された過剰な固定資本に対する減耗が拡大したことによるものである。このような要因を考慮すれば現状においても貯蓄が資本形成に重要な役割を演じているといえよう。貯蓄のなかでは個人企業を含めた家計貯蓄が圧倒的な比重を占めている。すなわち、同年度における家計貯蓄は35兆9926億円で、総貯蓄の73.8%となっている。この間における家計の可処分所得は316兆8458億円であるから、家計貯蓄率は11.4%となる。家計貯蓄率の推移は1992年度に15.2%を記録して以来、漸減傾向にはある。このような日本の家計貯蓄率低下の原因としては、不況に伴う可処分所得の伸び悩みが続いていることや、家計の所得に対する金融資産の割合が上昇してきて、貯蓄の必要性が小さくなったことなどがあげられる。ただ、同年の家計貯蓄率が米国で2.3%、英国で0.9%、ドイツでも9.2%であることから、欧米主要国と比較すればなお高い水準を維持していることがわかる。これは現状の日本経済の不況に基づく国民の将来不安や、高齢化社会への急速な移行を背景に、老後目的貯蓄が急増していることがあげられよう。 次に家計貯蓄を金融資産構成の視点より考察してみよう。1999年度末における家計の金融資産残高は過去最高の1389兆6073億円である。このうち現金通貨・要求払預金11.0%であり、定期性預金42.6%、信託2.5%であることから、典型的な安全資産の割合が56.1%となっている。同様の比率は米国では約10%、ドイツでは約35%であることからみて、著しく高い比率であることがわかる。保険については27.6%であり、欧米主要国の平均とほぼ同じである。一方、リスク性資産である有価証券は4.1%(うち国債0.5%、投資信託2.3%、金融債1.0%)、株式・出資金は8.4%であり、合計でも12.5%にとどまっている。同様の比率は米国では約58%(債権約10%、投資信託約11%、株式・出資金約37%)、ドイツでも約37%(債権約10%、投資信託約10%、株式・出資金約17%)であることからみて、きわめて低い値であるといえよう。つまり、1999年度末の金融資産構成より、日本の家計は欧米主要国に比べて収益性よりも安全性、流動性を選好しているといえよう。歴史的な金融資産構成の推移として、保険のシェアについては、1970年以降一貫して上昇しているものの、1980年以降バブル期前後までは、定期性預金等の安全資産の比重が低下し、かわって有価証券などの高利回り貯蓄商品のシェアが上昇していた。しかし、安全資産シェアは50%を若干下回った水準であり、レベルとしては相当に高い値であった。しかも、1990年代以降は不況の影響により、将来に対する潜在成長率の低下を見込んで流動性選好が高まったことから、安全資産のシェアが上昇する傾向にある。